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いなかの猫の天邪鬼部屋

影のような人ケイ

影のような人ケイ

人間なら誰にでも必ずあるもの。
簡単に思い浮かぶものは多いが、まさにあなたの後ろのそれ。
自分のもう一つの姿。
光に隠されたまま泣いている存在、影。


ずっと前から、多く、多くの作品で影の存在は常に陰湿で侘しかった。表に出すより隠されたまま、暗示する存在としてより近く、近付いて来た。
ナムジャイヤギにも、各自の暮らしの束縛にぶら下げられた多くの種類の影達が存在する。
その中で一際目に浮かぶ影がある。まさにケイだ。
以前の影とは違い、明らかに生きて動く存在。だが、むしろドウの影のようなケイ。そうであるからか、より目が行く。
殺人なんぞは躊躇せず、盲目的に自分の主人に忠誠を尽くすケイ。彼はあたかもチェ・ドウの別の一人の者のような存在に見える。ドウの人工衛星のように動くもの。自分の意思で何かをするより、他人の意思であるドウのための存在感。徹底的に計算された彼の軌道で動くような影。一寸の誤値も許さないドウのフレームの中に存在する影。主人のためだからと単独で進行した殺人によってドウに一方的に殴打されても何も言わない存在。それでも再びドウに近付いて行く存在。

ケイは私達が生きて行っていて振り落とす事の出来ない影とあまりにも似ている。遠ざけようとすればするほど近付いて来て、どうやってでも振り切ってしまおうとするが、いつの間にか傍にくっ付いている存在。
劇中ドウを最もよく知っている人物をウンスだと仮定しているが、私の考えは少し違う。ドウの裏面を最もよく知っていた人は彼の影のような存在ケイだったと思う。
それでだろうか?ドウは自分の恥部をあまりにもよく知るケイをしばらくの間捨てようとしたのかもしれない。
自分の裏面を覗けば覗くほど、より遠くに置きたくなる心理。だが、そうすればするほど影はより濃くなって近付いて来る。
そんな影を振り切ろうとする瞬間、ケイは自分の死とドウの破滅を予め予感していたのかもしれない。
最後の瞬間にも、自分が知らない事を自分が進行した事のように言って死体に変わった影としての物体喪失。
もしかすると、ドウの影としてのケイは、物体喪失と共に自我喪失によって本当の自分の影に付いて行ってしまったのかもしれない。

それでだからか、劇中ケイの姿は寂しく悲しく見える。
おそらくそれは、忘れられてしまったケイ自身の影の叫びではなかったかと考えてみる。
自分にも存在する影の存在を忘れたまま生きたかのようなケイ。自分自身が影であるため、自分には影などないと。
そうやって隠されたまま自分の存在を一度も残す事が出来なかった影は、自らを取り込んで行ってしまった死体の前で、より濃く残されたようだ。
いや、もしかするとケイの死がより物悲しい理由は、最後の瞬間にようやく自分の存在を認識して近付いて行ったが、その影すら血一滴と共に消えてしまい誰も認識出来ない、そんな影のような彼の人生だからだと思う。


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